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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(行ツ)114号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

行政庁の処分に対して取消訴訟の提起が許されるのは、行政庁の処分が相手方その他国民の具体的権利義務を形成しまたは確定するからである。本件の場合、労働基準法七五条以下の規定による災害補償に関する労働者と使用者との権利義務の関係は、右各法条に該当する事実の生じたとき法律上当然に生ずるのであつて、同法八五条および八六条による労働基準監督署長および労働者災害補償保険審査官の審査の結果は、いずれも労働者と使用者との間の紛争解決に資する勧告的性質を有するにとどまるから、被上告人両名の各認定行為は取消訴訟の対象となる行政庁の処分に当たらないとした原判決(その引用する第一審判決を含む。)の判断は正当である。論旨は、使用者が右審査決定に従わないときは、同法一〇二条によつて告発され、その結果、同法一一九条によつて処罰されるのであるから、右審査決定は当事者に法的効果を及ぼすものであると主張するが、同条によつて使用者が処罰されるのは、審査の結果に従わないためではなく、同法七五条ないし七七条、七九条、八〇条の補償または葬祭料を支払わないためであつて、審査の結果の有無は右告発および処罰とは法律上の関係はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原審の判断を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)

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